人事同士の本音の座談会/正論だけでは乗り越えられない人事の知恵

先日、複数の中小・ベンチャー企業の人事が集まり、互いの悩みを持ち寄って相互解決し合う座談会を開催させていただきました。社長交代で会社はどう変わるのか。残業ゼロは何をもたらすのか。コーポレートに向く人材とは。リアルな各社の人事のお悩みを整理してお届けします。

1. 人事のプロが、本音で悩みを持ち寄る場

1-1 会社も立場も違う人事が集まる座談会

先日、会社も立場も異なる人事が集まる座談会を開きました。一人30分ずつ、いま抱えているリアルな悩みを持ち寄り、それを全員の知見で解きほぐしていく——そんな場です。

1-2 社内では言えない悩みを、利害のない仲間へ

社内では相談しづらいことも、利害関係のない仲間になら話せます。その対話から浮かび上がった学びは、多くの組織に通じるものでした(※当日は守秘義務の元にお互いの情報を開示しましたが、当ブログでは参加者・企業が特定される情報はすべて伏せています)。


2. 社長が変わると、会社の「らしさ」はどこまで変わるのか

2-1 ビジョンの“温度”が下がるとき

最初のテーマは、社長交代と子会社化による、会社のアイデンティティの揺らぎでした。カリスマ的な創業社長のもとで「ビジョンを追う会社」として育った組織が、現場叩き上げの二代目に交代し、さらに親会社の完全子会社になる。すると、同じビジョンを掲げていても、語られ方も伝わり方も変わっていく。ビジョンが「本気で心から発せられる言葉」から「組織を束ねるためのツール」へと、形骸化してしまったのです。

2-2 人は「会社」ではなく「人」について行く

ここで見えたのは、「ビジョン」は同じでも、トップの意思やコミットメントがなければ形骸化してしまい、組織文化も変わってしまうという事実です。そして人は、会社ではなく**「人(社長)」について行く**という側面です。企業である以上、短期の数字達成は重要ですが、ビジョンが形骸化してしまうとそれが第一になり意義を喪失してしまう——これははくの企業に共通する難題ではないでしょうか。


3. 「残業ゼロ」がもたらした、静かな副作用

3-1 利益は改善、でもエンゲージメントは低下

次は、トップダウンで「残業ゼロ」を敷いた組織の悩みでした。人件費抑制と効率化のため残業を一切禁止したところ、利益率は改善した一方で——「もっと仕事したいのにできない」という不満、生活給が減る不安と離職、そして制度をかいくぐる“隠れセルフ残業”が生まれていました。

3-2 ハードで解けない問題は、ソフトで解く

ここで出た本質的な問い掛けが、「何のための残業抑制なのかが、従業員に伝わっているか」でした。制度(ハード)は、どう設計しても個人にはネガティブに映る余地が残ります。だからこそ、「なぜその施策をやるのか」という意味を、「それが伝わるまで説明し続ける」ことに力を注ぐ必要があります。制度一つ一つを個別の打ち手と捉えるのではなく、理念から一貫して設計し、ストーリーを示すことが重要です。


4. 「残ってほしい人」から、組織を設計する

4-1 離職の中身を吟味する

「離職が増えた」という悩みは多く聞きますが、「どんな人が辞めているのか」の中身を見ることも非常に重要です。一概に「人が辞めているからまずい」とは言い切れず、組織において一定の新陳代謝は必要です。ただし、「会社として残ってほしい人が辞めている」場合は要注意です。しかし、「どんな人に残って欲しいか」がそもそも言語化できておらず曖昧なケースが多いです。

4-2 バイネームで1年後の組織図を描く

ここで有効なのが、バイネーム(実名)で1年後の理想の組織図を描く手法です。これによって「誰に残ってほしいか」「誰を引き上げたいか」「どこを採用で埋めるか」が具体的にイメージでき、「会社としてどんな人を増やしたいか」「どんな人を評価したいか」「どこにリソースをかけるべきか」など、人事、組織戦略の施策が明確になります。


5. 攻めと守りを、兼任させてはいけない

5-1 兼任が生む、利益相反

組織設計で繰り返し出たのが、「攻めと守りの兼任」の危うさでした。財務(守り)の責任者が営業部門(攻め)を兼任すると、評価されやすい攻め側にリソースが偏り、守りが手薄になる。エンジニア組織の長が特定事業部を兼任すれば、自分の事業部に“いい人”を送りたくなる利益相反も生まれます。表彰が兼任先チームに偏り、恣意的に見えてしまった、という声もありました。

5-2 「利益相反しない兼任」もある——2軸で見極める

一方で、利益相反しない兼任もあります(例:淡々とミスなく回す労務と、人事企画は利害が衝突しない)。兼任は「利益相反の有無」と「向き不向き(使う筋肉の違い)」の2軸で見極める、という整理に落ち着きました。


6. 内製か、外部プロか——コーポレート機能の作り方

6-1 ゼロから内製で育てる難しさ

「経営企画・人事機能をゼロから内製で構築したいが、人も経験も足りない」という悩みも共通でした。ここで論点になったのは「組織を強くするために内製にこだわる」ことが、かえって組織の成長スピードを阻害してしまう可能性があるということです。

6-2 使うほど活きる「意思ある外部活用」

そこで出たのが「外部人材を有効活用する知見の重要性」です。専門領域については外部のプロや副業人材を活用した方が、早く費用対効果も高いケースが多々あります。 ただし丸投げは禁物で、「どこに・どう使うか」の意思を社内が持ってこそ外部活用は生きます。また外部を活用する際には、自社と二人三脚しながら、自社にリソースを残してくれるような関わり方をしてくれる外部パートナーを活用することが重要です。


7. コーポレート・人事に「向いている人」とは

7-1 代弁者・事業成長視点・2つ上の視座

最も盛り上がったのが、「コーポレートや人事に向いている人材の特徴は?」でした。挙がった条件は——
①経営者の代弁者になれる(会社の決定を自分の言葉で現場に落とし込める)
②事業成長を第一に考える(コーポレート施策を事業成長と紐付けて考えられる)
③2つ上の視座を持つ(担当者なら部長レベルの目線で考える)。

7-2 「言える知性と言わない品性」

そして響いたのが**「言える知性と言わない品性」**。何を、どんな言葉で、誰に、どう伝えるかを考えて、言える知性はもちろん重要です。しかし、より重要なのは何を言わないかを見極め、理性で判断できる品性です。コーポレート部門は秘匿性の高い情報を多々知ることになります。それを軽々しく口外してしまうことは論外です。また自分の承認欲求を満たすために、自分の成果をひけらかすような発言をすることもコーポレート部門には向きません。コーポレートは経営に近い立場で仕事をするので、ともすると権威に取り支えて偉ぶってしまうケースもあります。ただ本来の役割は現場の成果を上げるための支援です。そこを履き違えてしまう人に任せてしまうとエラーが多々出てしまいます。


8. 結び:人事に必要な「知性 × 品性 × 腹芸」

人事は言葉通り、「人の事」を扱う役割です。それは正論だけでは動きません。経営の正しさと現場の正しさ、論理と感情の間を、知性 × 品性 × 腹芸でどう越えるか——そこにこそ、人事という仕事の醍醐味があります。


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