プレイングマネージャーは悪なのか|組織フェーズで変わる管理職の役割

プレイヤー業務が多いこと自体は、悪ではありません。組織が組織フェーズにおいては、課長が最前線に立つのはむしろ正しい動き方です。
マネジメントの正解は、組織のフェーズによって変わります。一般論が当てはまらないと感じるときは、 ご自身の組織フェーズに照らして考えてみましょう。
マネジメントのセオリーとして、よくこう言われます。「できるだけプレイングマネージャーにならないように」「プレイヤー業務は自分がいなくても回る状態にしましょう」。そしてマネージャーは管理、組織構築、人材育成、将来への投資に時間を使う。
正しい話です。ただ、この話を聞いて違和感を覚える管理職の方が、一定数いらっしゃいます。
部署が立ち上がったばかりで、型を作りようがない。新規事業を担当していて、何が正解かまだ分からない。そういう状況にいると、このセオリーは自分の現実と噛み合いません。
この記事で分かること
- マネジメントの一般論が、自分に当てはまらないと感じる理由
- 組織のフェーズごとに、課長の重心がどう変わるのか
- プレイヤー業務を手放すべきかどうかの判断基準
なぜ、マネジメントの一般論が自分には当てはまらないと感じるのか?
結論から言うと、一般的なマネジメント論は「ある程度、型ができているものを回す」前提で語られていることが多いからです。
型を作り、仕組み化し、権限移譲して、自身は管理や中長期的な投資へリソースを使う。どれも、すでに勝ち筋が見えていて、やり方が固まっている業務を前提にしています。その前提が成り立っていれば、セオリーはそのまま効きます。
ところが、立ち上げたばかりの部署や新規事業には、渡すべき型がありません。型がない状態で権限移譲だけを進めると、任された側が何をすればいいか分からず、結局止まります。
この違和感の正体は、前提としている組織のフェーズが違うことです。
組織フェーズをどう判断するか?
組織フェーズは、プロダクトライフサイクル(導入期・成長期・成熟期・衰退期)を、事業や組織の状態に当てはめて考えてみるのがおすすめですです。
もともとは製品が市場に出てから衰退するまでの推移を表すモデルですが、部署やチームの状態にもそのまま当てはまります。そしてフェーズが変われば、求められるマネジメントも変わります。
フェーズごとに、マネジメントは何が変わるのか?
変わるのは「管理職が時間を使う対象」です。一覧にすると、こうなります。
| フェーズ | 組織の状態 | 課長の重心 | プレイング比率 |
|---|---|---|---|
| 導入期 | 何が正解か分からない | 率先して難局に突っ込み、噛み砕く | 高くてよい |
| 成長期 | 勝ち筋が見えてきた | 型をつくり、人を配置する | 下げていく |
| 成熟期 | 型で回っている | 仕組み化と、次の仕込み | 低く保つ |
| 衰退・再生期 | 頭打ち、または縮小 | 事業の再定義、次の柱づくり | 新領域において高くなる |
導入期:課長が最前線に立つ
どうすれば成果が出るのかが、まだ誰にも分かっていない時期です。ここでは課長自身が率先して新しいことに突っ込み、やってみて、他のメンバーができるように噛み砕いて、見本を見せることが求められます。
この時期に権限移譲を優先すると、うまくいきません。導入期の仕事は、まず自分たちで試しながら形にする段階だと割り切ります。部下にもそれをマインドセットすることが重要です。
人の配置も変わります。誰にでも振れる仕事ではないため、少数精鋭で、右腕をつくって進めることになります。
成長期:型をつくって配る
勝ち筋が見え、型をつくって人を投入すれば伸びる時期です。ここで課長は完全に管理側に回ります。
やることは、成功パターンをを型にして、誰でも回せるようにすること。そして回せる人を増やすことです。セオリーどおりのマネジメントが最も効くのが、このフェーズです。
成熟期:回しながら、次を仕込む
型ができ、組織が回っている時期です。ここでの落とし穴は、回すことに専念してしまうことです。
成熟期は、放っておけば必ず衰退します。今のものを回しながら、先を見据えて先手を打つ。投資的な動きをする余力があるのは、このフェーズだけです。
衰退・再生期:事業を再定義する
頭打ちが見えてきた時期です。既存のやり方を磨いても、数字は戻りません。
ここで必要なのは、新しいことを仕掛けること。つまり次の導入期をつくることです。そして新しい領域に入れば、課長の動き方はまた導入期のそれに戻ります。フェーズは一方通行ではなく、循環します。
プレイヤー業務の比率を、どう判断するか?
見るべきサインは2つです。
サイン1:型ができているのに、手放せていない
すでにやり方が固まっているのに、自分が抜けると回らない。部下が回せていない。この状態なら、重心を「回す方」に移す時期です。
導入期の動き方を成長期に持ち込んでいる状態で、ここが最も多い詰まり方です。
サイン2:頭打ちなのに、目の前だけを回している
型で回ってはいるが、数字が伸びていない。それでも日々の業務を回すことに時間の大半を使っている。この状態なら、重心を「中長期」に移す時期です。
ここで使うのが、いわゆる第二領域です。時間管理マトリクスでいう「緊急ではないが重要なこと」、つまり中長期の仕込み、育成、体制づくり、ビジョン設計にあたります。
意図的に案件を選び、困難なところを率先して見せ、現場のモチベーションという観点も踏まえたうえで現場業務を回すことは、効果的に働きます。
まずいのは、現場が回らずに巻き込まれ、マネジメント業務ができないままプレイングから抜け出せない状態です。選んで最前線に立っているのか、抜けられないのか。ここが分かれ目になります。
こうなったときの対策は第二領域の仕事を先に予定に入れることです。多くの場合、現場業務を回して、残りの時間で第二領域を回そうとしますが、これはうまくいきません。
導入期に、課長がやってはいけないことは?
課長がどんどん進めた結果、「課長しかできない」状態を作ってしまうことです。
導入期に率先して動くのは正しいのですが、そのまま放置すると、成長期に移れません。形ができたものから順に、型にして共有していく必要があります。
ここで効くのが、型にする作業自体を若手に任せる方法です。自分がやっていることを口頭で説明し、それを資料やマニュアルに落とす役をお願いします。
型化を課長ひとりで進めるのは、現実的ではありません。そして「仕事ができること」と「その仕事を型にして共有できること」は、別のスキルです。分けて考えると、育成の機会にもなります。教え方の手順はティーチングの5ステップにまとめています。
自分の組織がどのフェーズかは、どう見分けますか?
次の問いに答えると、おおよそ判定できます。
- この業務のやり方は、言葉や資料で説明できる形になっているか
- 自分が1か月抜けても、業務は回るか
- 去年と同じやり方で、数字は伸びているか
1つ目がノーなら導入期、1つ目がイエスで2つ目がノーなら成長期、2つ目までイエスで3つ目がノーなら成熟期から衰退期への入り口です。
ひとつの組織に、複数のフェーズが混在する
実務で重要なのはここです。組織全体でフェーズが1つとは限りません。
既存業務は型ができた成長期、新しく始めたスキームは導入期。同じ課の中で、2つのフェーズが同居しているケースはよくあります。
このときは、業務ごとに分けて考えます。既存業務は若手に任せ、導入期の業務は経験者がメインを持つ。混ぜると若手が混乱します。そして導入期の業務に新人をつけて、「経験者がやっていることを言語化して残す役」を任せると、育成と型化を同時に進められます。
よくある失敗は?
導入期なのに、権限移譲を急ぐ
セオリーに忠実であろうとして、型がないまま任せてしまうパターンです。任された側は何を基準に判断すればいいか分からず、確認のたびに止まります。
導入期にやるべきなのは移譲ではなく、自分でやって形をつくることです。順番を守ります。
型ができたのに、最前線から降りない
導入期の動き方が心地よくなってしまうパターンです。手を動かしている実感があり、成果も見えやすいため、抜けるきっかけを失います。
対策は、あらかじめ期限を決めておくことです。「年内は自分がメインで回す。年明けに形が見えてきたら、引き継ぎ方を考える」と、フェーズの切り替え時期を先に宣言しておきます。
成熟期なのに、次を仕込まない
回っているうちは問題が見えないため、最も気づきにくい失敗です。数字が落ち始めてから動くと、打ち手を考える余力がすでに残っていません。
成熟期は、次の投資ができる最後のフェーズだと考えます。目標設定の段階から中長期の仕込みを組み込む方法は、メンバーマネジメントの全体像で解説しています。
まとめ
- マネジメントの一般論は「型ができたものを回す」前提で語られています。当てはまらないと感じるのは、フェーズが違うからです
- 導入期は課長が最前線に立つのが正解、成長期は型をつくって配る、成熟期は仕組み化と次の仕込みです
- プレイングの多さではなく、「選んで立っているのか、抜けられないのか」で判断します
- ひとつの組織に複数のフェーズが混在します。業務ごとに分けて考えます
自分のフェーズを確かめる
- この業務のやり方を、言葉や資料で説明できる形にしているか
- 自分が1か月抜けても、業務は回るか
- 導入期の業務を、型にして残す動きを始めているか
- 第二領域の時間を、先に予定に入れているか
- フェーズを切り替える時期を、自分で決めているか

