1on1改革|離職率減とエンゲージメント向上を実現したメカニズムとは

1on1が形骸化する原因は、頻度やルールの設計ではなく「何のためにやるのか」が決まっていないことにあります。
目的を決め、目的を達成する型をつくり、型を実行できるスキルまで揃える。この3ステップを支援し、離職率減とエンゲージメント向上を実現した事例をご紹介します。
この記事で分かること
- 1on1が形骸化する本当の原因
- 目的・型・スキルの3ステップで立て直す進め方
- 30分の対話の型と、そのまま使える会話例
ご支援を始めた経緯
ご相談者は300名ほどのコンサルティング企業の執行役員方でした。最初にいただいたのは、「1on1の精度を高めたい」というもの。
制度としては整っていて、月1回30分という頻度も決まっている。それでも現場では2つのことが起きていました。
- 上司によって実施状況が異なる。 予定は入れるものの、業務が忙しいという理由で実施しない上司がいる
- 実施されても質がそろわない。 進捗確認で終わる上司もいれば、雑談で終わる上司もいる
そしてこの差が、離職として表面化していました。特定の上司のもとで離職が続く一方、別の上司のもとでは部下の成長が早く、昇進する人が多い。
プロジェクトの狙いはボトムアップです。1on1の実行度合いと質を底上げすることで、離職率とエンゲージメントサーベイ結果の向上を目的としてスタートしました。
なぜ1on1は形骸化していたのか?
まずは実態を把握させていただいてすぐに分かったのは、1on1をやる理由が上司に腹落ちしていなかったということでした。
1on1の定義署は作られていたのですが、その存在を知らない上司が多々いる状況。かつ存在を知っていても内容が形骸化されていて、当初の思いや意義が伝わっていない状況でした。 目的が分からないまま30分を埋めようとすると、いちばん慣れている進捗確認になります。そして部下にとっては、定例会議と何ら変わらない時間となり、双方に意味を喪失していくという構造でした。
実施されないのも同じ理由です。目的が分からない予定は、忙しくなれば当然ながら優先順位は下げられます。優先順位を上げる根拠が渡されていないという状況でした。
ですから、最初のオーダーは「1on1のスキル研修」でしたが、「目的の明確化とインストール」、そして「目的を達成するための1on1の型作り」が必要と考えました。
どう立て直したのか?
進め方は3つのステップに分けました。
1on1を立て直す3ステップ
1on1改革とは、面談の回数やルールを整えることではなく、何のために行うのかという目的を定め、その目的を達成する対話の型と、型を実行するスキルまでを揃えることです。
ステップ1:1on1の目的をどう定義したのですか?
最初にやったのは、市場背景など大局的な視点を持って目的を言語化することでした。
転職が当たり前になり、個人が選べる選択肢は以前と比べものにならないほど増えました。その中で問われるのは、なぜこの会社を選び続けるのかという問いです。
個人が働くうえで大事にしたいこと。この会社にいることの意味。この2つがつながっていれば人は残りますし、切り離されていれば、条件の良い場所へ移ります。
そして、この2つを接続できる立場にいるのは、人事でも経営でもなく直属の上司です。そして、それを接続する具体的な場が1on1である——ここまで言語化して、はじめて上司は1on1をやる意味が腹落ちしました。
目的を達成するために必要なのは「前進感」
目的を踏まえ、1on1で何をすべきか。重要なのは部下に前進感を与えることです。
部下が会社を離れる手前にあるのは、「停滞感」です。「ここにいても自分は前に進んでいない」という感覚が積み上がることが離職のきっかけになります。
ステップ2:どんな対話の型をつくったのですか?
目的に対して合意が取れたところで、それを達成するための「進め方を型」を作りました。
30分の対話の型
状態を聞く
毎回の冒頭で「心身ともにエネルギッシュに働けている状態を100点とすると、今は何点ですか?」と聞きます。続けて「その点数は、あなたにとって高いですか、いつも通りですか、下がっていますか?」と確認します。点数の意味は人によって違うため、この確認が欠かせません。
毎回聞くと定点観測になり、「前回より下がっていますが、何かありましたか?」と変化から入れるようになります。うまくいっていないことを部下から切り出すのは難しいので、上司側がきっかけを用意します。
テーマを決める
「何か話したいテーマはありますか?」から入ります。出てこなければ「これとこれを考えてきましたが、どれを話しますか?」と選択肢を出し、最後に「今日はこれでいいですか?」で合意します。
オープン → 選択肢 → クローズドの順に絞るのがコツです。いきなり選択肢を出すと、部下が本当に話したいことが埋もれます。
思考を整理する
頭の中の混乱を、見える言葉にしていきます。ここでも有効なのが選択肢です。
「業務量はどう?」と聞けば「大丈夫です」で終わります。「①余裕があってもう少しできる ②厳しいけれどちょうどいい ③正直かなりきつい、のどれに近いですか?」と聞くと、答えが返ってきます。
ボトルネックに手を打つ
整理した中から、いま詰まっている一点を特定します。すべてに手を打とうとすると30分では終わらず、何も進みません。
特定できたら、そこに的確な助言をします。ここは遠慮せず、上司の経験を使うところです。
次の行動を決める
クロージングで、いつ何をするかまで決めて終わります。「頑張って」で締めると、翌日から何が変わるかが決まっていません。
「次にやることは何にしますか」「いつまでにやりますか」「私が動いたほうがいいところはありますか」。この3つで閉じます。
実際の会話例
ケース1|「特にありません」で止まる
✕「最近どう?何か困ってることある?」→「特にありません」
○「エネルギッシュに働けている状態を100点とすると、今は何点ですか?」→「70点くらいですかね」→「その70点は、あなたにとって高いほうですか、いつも通りですか?」
ケース2|負荷の実態がつかめない
✕「業務量、大丈夫?」→「大丈夫です」
○「①余裕がある ②厳しいけどちょうどいい ③正直かなりきつい、のどれに近いですか?」→「②と③の間です」→「③に寄っているのは、どの業務ですか?」
ケース3|励まして終わってしまう
✕「大変だと思うけど、頑張って」
○「今の話だと、いちばん詰まっているのは承認待ちの部分ですね。来週やることは何にしますか?」→「先に確認を取ります」→「いつまでに。私から言ったほうが早いところはありますか?」
ステップ3:どんなスキルを身につけたのですか?
型を渡しても、実行できなければ意味がありません。最後のステップで、型を動かすスキルを習得します。
質問の工夫
前提においてのは「相手の考えを引き出すこと」です。1on1は相手に前進感を与えるための時間です。であれば、相手が考えていることを引き出せないとスタートに立てません。そのための「質問の引き出し」を増やしていきました。 例えば、「オープンクエスチョンをできるだけ使わない」ことです。「最近調子どう?」は、答えを組み立てる負荷が高く、無難な一言で返すのがいちばん楽になります。
点数で聞く。選択肢で聞く。この2つに置き換えるだけで、返ってくる情報量が変わります。仕事を任せるときも「やりたい?」ではなく「前向きにやりたい、に近いですか。やりたいけれどネックがある、に近いですか」と聞くと、ネックのほうを話してくれます。
ティーチングとコーチングの使い分け
型の後半では、助言をする場面が出てきます。ここで必要になるのが、教えることと、考えさせることの使い分けです。
- ティーチング:本人が答えを持っていないときに、やり方と理由を正確に渡す
- コーチング:本人が答えを持っているときに、それを引き出して本人の言葉にする
経験の浅い部下にコーチングで粘っても、答えは出てきません。逆に、自分で考えられる部下にティーチングを続けると、主体性を削ります。教え方の具体的な手順はティーチングの5ステップで解説しています。
難しいタイプへの引き出し
型だけでは越えられない相手もいます。実際に管理職が手を焼いていたタイプごとに、入り方を用意しました。
| タイプ | 関わり方の起点 |
|---|---|
| 考え方・価値観が上司と異なる | 主張ではなく「判断軸」で話す。何を重視してその結論にしたかを開示する |
| 自分の考えを言語化できない | 点数と選択肢に徹する。書いてもらってから話す |
| 未来像が描けず目標が定まらない | やりたいことから入らず、組織の期待と本人の関心を結びつける |
| 世代ギャップが大きい | 察することを期待せず、理由を言語化して伝える |
| 自己評価が高くFBが届きにくい | 「解釈」ではなく「求める基準」と「事実」ですり合わせをする |
1on1の時間が取れないときは、どうするか?
ここまで整えても、日中が打ち合わせで埋まり30分を確保できない管理職は必ず出ます。「時間を作りましょう」では何も変わらないため、代替策を用意しました。
短く、頻度を上げる。 30分を月1回より、5分を週1回のほうが変化に気づけます。定点観測が目的なので、長さは必要条件ではありません。
対面にこだわらない。 週1回、その週の進捗と考えていることをメッセージで送ってもらい、それにきちんと返す形でも成立します。
返信は音声で返す。 これが最も効果的でした。「メモを見ました。今週もお疲れさまでした。このあたりをフォローできていませんが、大丈夫ですか」と音声で返すと、文字より温度が伝わります。書くより時間も短く済みます。
起きた変化
成果として、プログラムを実施した部署の離職率は、実施していない部署と比べて低下しました。 会社が定期的に測定しているエンゲージメントサーベイのスコアも上昇しています。
ただ、現場で先に変わったのは管理職の言葉でした。「あの部下は話さない」という人物評から、「あの聞き方だと話しにくかった」という自分の打ち手の話へ移っていきました。
受講した管理職からは、こうした声が挙がっています。
- 実践と振り返りが、習慣として定着した
- 講師のデモロールプレイのインパクトが大きかった
- ロールプレイを通じて「相手を理解すること」の重要性を再認識した
- 難しいタイプ別のアプローチが、具体的にイメージできるようになった
よくある失敗は?
目的を決めずに、ルールと頻度から入る
最も多い失敗です。「月1回30分、全管理職必須」と決めれば動き出すように見えますが、目的が空白のままでは進捗確認に着地します。
実施率を追うほど、現場は「こなす」ほうへ向かいます。頻度は、目的を決めたあとに決めます。
型を渡さず、心構えで終わる
「傾聴しましょう」「部下に関心を持ちましょう」で研修を終えるパターンです。正しいのですが、月曜日の1on1で何をすればいいかが分かりません。
30分をどの順番で使うのか、最初の一言は何かというレベルまで型にします。再現できない助言は、渡していないのと同じです。
1回の研修で終わりにする
型を配って解散すると、2週間で元のやり方に戻ります。1on1は個室で行われるため、他人のやり方が見えず、自己流のまま固定されるからです。
試して、持ち寄って、共有する。この往復を繰り返すことで、はじめて属人化が崩れます。定着に必要なのは回数ではなく、持ち寄る場があるかどうかです。
まとめ
- 1on1が形骸化する原因は、頻度の設計ではなく目的の空白にあります
- 目的は「個人が働く意味と、この会社にいる意味を接続すること」。接続する場が1on1です
- 目的を達成する手段は、部下に前進感を与えること。そのための30分の型をそろえます
- 型を渡すだけでは戻ります。スキルの習得と、持ち寄る場までをセットにします
次の1on1の前に、このチェックを
- この1on1が何のための時間か、部下に説明できるか
- 自分が話す時間より、部下が話す時間のほうが長いか
- いま詰まっている一点を特定できたか
- 抽象的な励ましで終わらず、次の行動と期限まで決まったか

